専攻紹介

About us

咲く場所は自分で選べるということ(植物と違って)

2019年度 博士課程卒
森林圏遺伝子統御学分野

森林代謝機能化学研究室 助教

巽 奏さん

知力を磨く勝負どころを求めて

 幼い頃から植物をじっと見ることが好きでしたが、研究職という職業は遠い存在で、まさか自分が植物の研究者になるとは考えたこともありませんでした。高校時代は吹奏楽の強豪校で勉強よりも部活に明け暮れて楽器の練習ばかり。いざ受験勉強と切り替えるその直前に家庭の都合で、受験勉強をあまりせずに大学への入学をすぐに決めてしまいました。しかし、勉学というステージで本気で勝負した機会が一度もないことが惜しくなり、その機会を大学院の入試に求めることにしました。当時はどうせ挑戦するなら賢い大学に、という軽いチャレンジ精神で京都大学は候補のひとつであったものの3回生の春に東京で行われた農学研究科の入試説明会に参加したことで本格的に目指す意思を固めました。その説明会で英語の比重が大きいという具体的なことがわかったので、まず始めたのは英語の勉強。基本的な単語帳を使ってボキャブラリーを増やすことから始めました。その頃に、大学の講義で植物がつくる有用成分ついて学んだことから、植物ならではの多様性に惹かれて、研究室は応用生命科学専攻の森林圏遺伝子統御分野を志望することに決めました。そこから半年間、英語に加えて専門科目も本格的に勉強しました。当時は卒業研究のために大学の研究室に所属していたので、日中は実験をして、実験の待ち時間と夕方17時以降から大学の図書館で集中して勉強しました。ここが勝負どころとわかっていたので根を詰めて勉強しましたが、それでも合格する自信を持てず、入学試験の前日に重い参考書を詰めたスーツケースを持って不安で半泣きになりながら新幹線で京都へ向かったそのときの感情は今でも本当によく覚えています。

研究が新しい場所へ私を連れてゆく

 応用生命科学専攻に入学してからのキャリアは自分が舵を取っているというよりも研究に導かれてここまで来たように感じています。修士課程への入学当初はその後の進路はまだ決めていませんでしたが、あっと言う間に研究に夢中になって博士課程に進学しました。修士課程から博士号の取得までは一貫して薬用植物の有用物質に関する基礎研究を行いました。その5年間は自分でも気づいていなかった素質を研究室の先生方や研究員の方、先輩に見出してもらってそれを日夜ひたすらに磨いていた、というように今は思えます。応用生命科学専攻は他の大学と比較して博士課程に進学する人数も多いので、自分とは別の研究室の博士課程の学生と励ましあえたこともよかったです。また、研究とは関係ないですが、京都で学生生活を送れたことはかけがえのない経験になりました。今も日本への帰国というと実家ではなく鴨川の風景が脳裏に浮かびます。

博士課程のあいだに出会った「こんなふうになりたい」と思う研究者の方々の多くが海外での研究経験をお持ちだったことから、私も自然と卒業後は海外で留学してさらなる研鑽に臨みたい、と思うようになりました。その目標を意識して口にするようにしていたからか、縁があって現在はフランス・ストラスブールのフランス国立科学センターで博士研究員として植物の基礎研究を続けています(写真)。なぜ植物は多様な有用物質をつくることができるのか、という学術的な興味はそのままに研究材料をコケ植物に変えて研究を展開しています。はじめは上司となる相手と英語でのコミュニケーションがうまく取れずに苦労もありましたが、研究の話・サイエンスの話となるとなぜかお互いに言いたいことがよく通じるので研究の基礎的な思考は世界共通であることがわかり、応用生命科学専攻で学んだことに手応えを感じました。日々の大まかな仕事内容は実験をしたり論文を書いたりと博士課程の頃と大きくは変わりませんが、博士号を持っている、いわば、プロとしてチームに貢献できるように心がけています。研究の世界には競争的な側面がありますが、チャレンジングな環境で自分の能力を試せる環境にいる、そのことがすでに十分に価値のあることだと考えています。そこで成功するかしないかはまた別の話。大学生のみなさんにも、あまり心配しすぎず挑戦する価値があると、ほかならぬ自分自身が思えるものには大いに挑んでみることをお勧めします。植物は種を撒かれたところから動けませんが、私たちは好きな場所へ動けます!

写真. 留学先のストラスブール、大聖堂からの風景