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予定通りになんていきません

2020年度 修士課程卒
細胞生化学分野

文部科学省 科学技術・学術政策研究所

髙橋 智さん

研究者を目指すつもりで…

 もともと研究者を目指すつもりで京都大学を選び、入学当初から細胞生化学分野でドクターまで進学しようと思っていました。3回生の時の研究室選びで無事細胞生化学分野に所属することが決まったときは結構うれしかったです。

細胞生化学分野では、脂質輸送タンパク質の研究グループに配属され、分析手法の開発を行うことになりました。細胞を使ったり、微生物を培養するテーマではなかったので、他の同期が細胞を使ってまさにバイオな実験をしている中、私はスパナ片手に分析装置をいじくりまわす毎日で、正直自分が農学部であることを4回生の最初の半年は忘れていました。分析技術がある程度確立してからは人並みに細胞も使いましたが。

 また、前任がおらず、まわりに相談できる人もいませんでしたので、ほぼ独力でいろいろと勉強しました。意外と基本的で大事なことが書いてある大昔の論文を読んだり、理学部の図書館に行って機器分析の本を和書・洋書問わず読んだりしました。業者の方々とも分析方法や装置の使い方についてたくさん相談しました。こういった経験のおかげで、独学でゼロから知識を身に付けることが得意になりました。このスキルについては就活の時にも、就職してからも助けられています。

 研究室では、研究成果の報告会や論文紹介の他にも、自由に決めた一つのテーマに関していくつか論文を選び、一貫したストーリーに仕立てて発表するセミナーといった定例行事が毎週ありました。M1の時、報告会、論文紹介、セミナーの3つの行事を私は同じ週で全部やることになってしまい、どれも大失敗に終わりました。それが悔しくて、M2のセミナーで発表するネタはその頃から探し始めていました。結局M2の時も3つの行事が重なり、「またか」と思いながら全部こなしたのはいい思い出です。当時のセミナー資料は今でも私の最高傑作だと思っています。

 研究をしていくと、いろいろと困難な時もあるかと思いますが、逆に成長のチャンスだと捉えるといいと思います。最初は「わからないこと」がわからないかもしれません。そう思ったらなんでも調べてみる、周りに聞いてみるなどいくらでもできることはあります。思いつく限り全部をやって無事できたらうれしいし、できなくても笑い飛ばせばいいです。周りの人たちは頑張りをきちんと見てくれています。結局できなくてもきっと一緒に笑ってくれるでしょう。

いろいろあって霞ヶ関へ

 上述のとおり私は研究者になるつもりで大学と研究室を選びましたが、経済面や職の安定性の点で不安だったのであきらめました。似たような事情の人は、今だから断定できますがかなり多いです。これから研究者を目指そうとする人たちには、夢をあきらめるようなことはしてほしくないと思い、基礎研究や人材育成を所管する文部科学省に就職しました(写真)。

 文科省1年目は大臣官房(大学の本部、一般企業でいうとバックオフィスに近い)で省内の取りまとめ業務をしていました。証拠に基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making, EBPM)の推進や政策評価の取りまとめが主な業務でした。特に専門は活かせませんでしたが、研究室在籍時に発表資料を作ったり、学会要旨を作文した経験はかなり役に立ちました。資料が読みにくい場合に手を入れて読みやすくしたり、上司に案件を説明したりする際は、研究室で得た経験が活かせたと思っています。業務の専門性という観点から言うと、政策の効果検証についての基本的な手法や理論などを学びました。

 2年目(本記事執筆当時)は文科省のシンクタンク的な機関である科学技術・学術政策研究所(NISTEP)に配属され、研究所の事務方として研究者の方々とやり取りしたり、本省との間で連絡・調整業務をしています。NISTEPは、日本の科学技術・学術政策研究の中核機関として、基盤となるデータを提供しており、大学にいた時とは違った切り口からサイエンスの世界を見ることができています。たとえば、毎年作成している「科学技術指標」は日本の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき体系的に把握するための基礎資料であり、発表されるたびにニュースになったり新聞記事になります。日本の科学技術関係の状況を把握できるので、毎日とても勉強になります。役所に就職してこうしたことが学べるとは全く思っていませんでした。

 これから先の人生で希望が通らず、やりたいこととは全然違うことをやる羽目になることはきっとありますし、そちらのほうが多いと思います。そこで「こんなことがやりたいわけではない」とふてくされるのは簡単ですが、それはもったいないです。意味のない経験なんてなく、自分がそこに意味を見いだせていないだけだと私は考えています。少しくらいコケても大丈夫です。焦らずにちょっと考えてみましょう。寄り道が無意味になるかどうかはあなた次第です。

写真. 奥左側のビルが文科省・NISTEPなどが入っている合同庁舎第7号館